革のできるまで:鞣し(なめし)

こんにちは、鞄工房山本メンズバッグセレクトショップの伊藤です。
今回の記事は「鞣し」の基礎知識編です。

「皮」と「革」
動物から採れる「かわ」を表す漢字には、「皮」と「革」の2種類があります。
学校では「皮」の方を先に習いますから、どんな「かわ」にも、
ついついそちらの字を使いがちかもしれませんね。
しかし、実は「皮」と「革」ではそれぞれ違うものを表しているのですが、
あなたはこの事実、ご存じでしたか?

「皮」の字は「鞣し(なめし)」をする前の、生の動物の皮を表しています。
鞣し前の皮は原皮(げんぴ)と呼ばれ、動物から採った獣皮そのもののことです。
「革」の字は、皮に「鞣し」という加工を施したものを表します。
バッグや靴などを作るためには、まず「皮」を「革」に変える必要があるのです。

話は戻りまして、「皮」を「革」に変えるというのはどういうことなのでしょうか?
この記事では鞣しの秘密に迫って参りたいと思います。

なめしって何?
動物の皮は本来とても柔軟性があるうえに丈夫。
できることなら、そのまま鞄に使えたらいいんですけれども
実際には、そう簡単にはいきません。
鼻からピーナッツを食べるようにはいかないのです。
動物から剥いだ皮は、いわば生肉と同じ状態。
そのままでは腐ってしまったり、乾くと硬くなったりしてしまいます。
そうなららにために薬品や植物の渋などによって、
状態を保存する方法が編み出されました。
これが「なめし(tanning)」と呼ばれる技法です。

なめしの種類と特徴
鞣しの方法にはいくつかの種類がありますが、代表的なものとしては、
(1)タンニン鞣し、(2)クローム鞣し、(3)混合鞣し、の3つの鞣しがあります。

(1) タンニン鞣し
まずは鞣し界の大御所、タンニン鞣しからご紹介いたします。
古くは古代エジプトから続くという伝統的な鞣しの技法であります。
折りからのオーガニック、天然素材、ナチュラルといった時流の流れに乗って、
今では鞣しといえばタンニン、というほどに隆盛を誇っているようです。
その勢いたるや、タンニンに非ずんば革に非ずや。というほど。

タンニン鞣しは、特定の植物に含まれているタンニン成分、つまり渋を使って、
皮の中にあるコラーゲン(たんぱく質)と結合させて鞣す方法です。
そのタンニンはミモザ、チェスナット、ケブラッチョなどの植物から抽出されます。
でも、タンニンっていわれても耳馴染みがないですよね。
いったいどんなものか材料別にサクッと解説してみたいと思います。

(1)-a ミモザ(Mimosa)
tannin_img01
ミモザは、南アフリカのアカシアの木です。元々の原産地はオーストラリア。
それがいつの間にやら、現在では南アフリカで計画栽培されております。
枝がしなやかなので、ワットル(wattle:しなやかな小枝)とも呼ばれています。
ミモザといえば、オレンジカクテルの名を連想する人が多いかもしれません。

(1)-b チェスナット(Chestnut)
“Under the Spreading Chestnut Tree”
ということでチェスナットは、くりの木。フランス・イタリアが主な生産地です。
そのため欧州のタンナー(革の加工業者)で使われることが多い材料です。
チェスナットなのかチェストナットなのか。どうなの。どっちなの。
tは発音してなさそうなのでここではチェスナット表記にしています。

(1)-c ケブラッチョ(Quebracho)
この材料別の解説、このケブラッチョのためにした、と言っても過言ではない。
ケブラッチョは、アルゼンチンの主要輸出品として栽培されているウルシ科の木。
ところでケブラッチョって、あまりにも怪しさ満点の響きなのでちょっと調べてみました。
どうやら現地のスペイン語で「斧をも壊すくらい固てぇだよ」という意味っぽいです。
しかも単一のジュモクの固有名詞ではなく、硬い木の総称なんだとか。
日本でいうところのどんぐり(ブナ科の木の総称)みたいなもの?
ってことはこの山ぜんぶケブラッチョ、見渡す限り地平線の果てまでケブラッチョ、
というエキサイティングな光景が、アルゼンチンの奥深くに眠っているんだろうか。
なお、ラップのcheck it out,yo とはまったく関係はありませんでしたyo!

以上の3つが主なタンニンの原料であり、いうなればタンニン御三家。
このタンニンをもって鞣された革が、皆さんご存じ「ヌメ革」と呼ばれるのであります。
タンニンで鞣された革は、表裏、断層面ともに茶褐色をおびています。
日光に晒されたり、使っていく(つまり革が摩擦、屈曲される)ことによって、
革の内部のタンニンが変成、茶褐色みが増していき、ついには飴色になります。
簡単にいうと、これがタンニン鞣しの革で起きる経年変化の仕組みです。
自然な風合いを、使いながら育てていく…… とても愛着の湧く素材です。ヌメ革って。
でも、経年変化が楽しめるということは、タンニンの茶褐色が強くなるということ。
美しく染めた革は、経年変化による色の変化にどうかご注意ください。
というか、もうこいは宿命て思おて諦めてくれんね。試練ばい。

(2) クローム鞣し
「塩基性硫酸クローム塩」という化合物を溶かした薬液で鞣しを行う方法です。
この塩基性硫酸クローム塩化合物(長い!)がコラーゲンと結合して革が鞣されます。
クローム鞣しの革の断面は青白い色になるため、「ウェットブルー」と呼ばれることも。
耐熱性と柔軟性に優れており、タンニン鞣しと比べて大量生産が可能なため、
19世紀末にドイツで実用化されてからあっという間に世界中に広がりました。
タンニン鞣しの革よりも、お手入れに気を使わなくっていいお気楽さがあります。
その反面、革の経年変化がはっきり出にくいのが短所といえます。
ええ、まったく出ないわけじゃないんですけどね。控えめな子なんです。

(3) 混合鞣し
タンニン鞣しとクローム鞣しのどちらでもない、新しい風合いを出すために、
2種類またはそれ以上の鞣し剤を用いた複合的な鞣し方です。
最初はクローム鞣しの処理を行い、途中からタンニンで仕上げることが多いです。
混合鞣しで作られた革は、柔軟性がありつつも余計な伸縮性は抑えており、
後で入れたタンニン剤の効果によって革の経年変化も楽しめることができます。
またこの方法だと、厚みがあって柔らかくしなやか、味わいのある革が作れます。
(タンニン鞣しだと、厚みを求めるほど硬くて締まった革になってしまいます)
タンニン、クローム両方の鞣し方のいわば「いいとこ取り」を狙った作り方といえます。
どちらかの鞣し剤単独使用の欠点を補うことができるため、主流となりつつあります。
その他、一回入れたクロームを抜き取ってからタンニン鞣しをするという、
掟破りの「脱クロームタンニン鞣し」などの新しい技法も登場し始めました。

だいぶ長くなってしまいましたので、前後編でいきたいと思います。
次回は鞣しの工程に迫ってみましょう。それではまた~。

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